これからの介護現場とAIの活用 ~自立支援・重度化防止と生産性向上の両立~
2023-01-16
注目
東洋大学ライフデザイン学部
准教授 高野 龍昭
1. 介護保険制度の最大の課題は「生産性向上」
近年の介護保険制度見直しの議論は、「財源の確保」「高齢者の自立支援・重度化防止」「介護人材確保」から「2040年問題」に軸足を移しつつある、というのが私の政策的分析です。一言で言えば、人口減少社会を迎えたなかでいかに介護保険制度の持続可能性を保つか、という検討に焦点が移ったということになります。これはそのまま介護サービス事業の経営にも直結する論点です。
この2040年問題をビジュアルに示すと図1のようになります。この図は、わが国の2015年の実際の人口を起点に、2045年までの人口推計値(政府研究機関の推計)を参照して、年齢階層別の増減がわかるように私が作図したものです。この図では、今後のわが国は、生産年齢人口(15-64歳)の3割近くの減少が予測される一方、85歳以上の人口は2倍近くに急増することが示されています。
一方、現状の要介護認定に関する状況・データをみると、85歳以上の高齢者の認定率は約6割ですから、今後、2040年を過ぎるあたりまでの間、全国の要介護高齢者は急増することは明らかです。そうした状況のなかで、働き手(介護従事者)となる若年層の人口は減少が加速することとなり、一層の介護人材確保難が示唆されます。
そのため、今後の介護・医療サービスの実践においては、「少ない従事者で、どうやって多くの高齢者に対応できるのか」を考えざるをえなくなります。つまり、この「生産性向上」を検討することが、制度の持続可能性を確保するための優先課題となり、これはそのまま介護サービス事業の経営にとっての課題にもなります。
この2040年問題をビジュアルに示すと図1のようになります。この図は、わが国の2015年の実際の人口を起点に、2045年までの人口推計値(政府研究機関の推計)を参照して、年齢階層別の増減がわかるように私が作図したものです。この図では、今後のわが国は、生産年齢人口(15-64歳)の3割近くの減少が予測される一方、85歳以上の人口は2倍近くに急増することが示されています。
一方、現状の要介護認定に関する状況・データをみると、85歳以上の高齢者の認定率は約6割ですから、今後、2040年を過ぎるあたりまでの間、全国の要介護高齢者は急増することは明らかです。そうした状況のなかで、働き手(介護従事者)となる若年層の人口は減少が加速することとなり、一層の介護人材確保難が示唆されます。
そのため、今後の介護・医療サービスの実践においては、「少ない従事者で、どうやって多くの高齢者に対応できるのか」を考えざるをえなくなります。つまり、この「生産性向上」を検討することが、制度の持続可能性を確保するための優先課題となり、これはそのまま介護サービス事業の経営にとっての課題にもなります。
2.ケアマネジメントにおける生産性向上
しかし、介護や医療は労働集約型のサービスの典型例であり、人件費率も高く、生産性向上の議論はタブー視されてきた経過もあります。
そのようななか、2021年度の介護報酬改定において、ケアマネジメント(居宅介護支援)で大変インパクトのある報酬体系の見直しが行われました。従来は、法令のうえでケアマネジャー1人あたりの担当件数が実質的に39件に限定され、それを超える場合は介護報酬を大幅に減額されることとなっていました。それを、21年度の制度改正において「条件付き」で44件まで担当できることとし、減額されるのはその件数を超える場合とする新たな報酬体系が登場したのです。
この「条件付き」の要件は、「一定の情報通信機器(人工知能関連技術を活用したものを含む)の活用または事務職員の配置を行っている事業所」と規定されています。
つまり、AIによるケアプラン作成支援システムを導入していることなどを要件として、ケアマネジャー1人あたりの担当件数の上限を緩和し、請求できる介護報酬の金額が増やせることになったのです。その金額は、ケアマネジャー1人あたり月額5万円を超え、10%以上の増収が可能になる水準です。事業所単体の収支は赤字の居宅介護支援事業所が多いなか、これは決して無視できない金額だと言えるでしょう。
なによりも、収支面の改善だけでなく、要介護者等の急増という社会的ニーズに応えやすくなるという面もあり、AIによるケアプラン作成支援システムの導入による生産性向上は大きな期待が寄せられるところです。
ケアマネジャーの「なり手」は近年減少しています。図2に示したとおり、2018年以降はいわゆるケアマネ試験の受験者数・合格者数が急減しています。居宅介護支援事業所のケアマネジャーは利用者にとって「介護サービスのガイド役」ですから、この減少は、地域の高齢者にとって、また介護サービス事業所にとって、そのままであればいずれ大きな痛手となるはずです。この観点からも、ケアマネジャーの担当件数を増やすことができるAIシステムの導入を急ぐべきだと考えられます。
また、AIシステムの導入は、担当件数を増やす=収入を増やすというだけではなく、ケアマネジャーの「働き方改革」にも繋がるはずです。多くのケアマネジャーは利用者との相談支援の場面よりも、ケアプラン作成や給付管理業務の場面に多くの業務時間を割いています。AIを活用すれば、ケアプラン作成やアセスメントの検討の時間数を大幅に効率化することも可能です。そのことは超過勤務等の軽減という意味もありますが、多くのケアマネジャーが欲している「利用者の相談支援・面接相談の時間の確保」にもつながり、ケアマネジメントの質やケアマネジャーの労働意欲の向上にも効果を発揮するはずです。
3.利用者の自立支援・重度化防止とAIによるケアプラン作成支援システム
今、シーディーアイ社を含め、国内でいくつかの企業がAIによるケアプラン作成支援システムをリリースしています。いずれのシステムも、多少の濃淡はありますが、利用者の心身機能の改善・悪化の防止に資する学習を重ねたAIを搭載しています。
生活環境や価値観、意欲などといった人文科学的分野の不可知な要素をAIが学習することは得意ではありませんが、ADLや認知機能、行動障害、栄養状態などといった自然科学的な心身機能のデータやその傾向、その改善などに効果の高いサービスを学習することはAIの最も得意とする分野です。政府が掲げている介護分野の重要施策である「自立支援・重度化防止」に対応するためにも、ひとりのケアマネジャーが自分の意見と知識だけでケアプランを考えるより、数万人分・数十万人分といった利用者の詳細なデータとグッド・プラクティス(教師データ)を学んだAIのサポートを受けながらケアプランを作成した方が、少なくとも心身機能面の自立支援・重度化防止に対しては一日の長があるはずです。
生活環境や価値観、意欲などといった人文科学的分野の不可知な要素をAIが学習することは得意ではありませんが、ADLや認知機能、行動障害、栄養状態などといった自然科学的な心身機能のデータやその傾向、その改善などに効果の高いサービスを学習することはAIの最も得意とする分野です。政府が掲げている介護分野の重要施策である「自立支援・重度化防止」に対応するためにも、ひとりのケアマネジャーが自分の意見と知識だけでケアプランを考えるより、数万人分・数十万人分といった利用者の詳細なデータとグッド・プラクティス(教師データ)を学んだAIのサポートを受けながらケアプランを作成した方が、少なくとも心身機能面の自立支援・重度化防止に対しては一日の長があるはずです。
4.これからの介護サービスの展開
このように、政策的(自立支援・重度化防止)にも実務的(生産性向上)にも、AIによるケアプラン作成支援システムは時宜にかなったものと言えるでしょう。
おそらくこうした流れは、ケアマネジメントだけでなく、介護サービス全般に拡がるものと考えられます。介護サービスの経営者・実務者のみなさんにとっては、AIを活用する体制とスキルが今後の「マスト」のひとつとなるはずです。
経営と実務の中長期的な展望に立てば、政策的な動向も踏まえ、こうしたシステムの導入は必須となると考えられます。